通夜は、故人を偲び静かに弔意を示す儀式です。言葉選びや声の大きさ、話す長さなど、細かな所作に不安を覚える方も多いでしょう。本記事では、遺族(喪主・親族)と参列者それぞれの立場から、受付・焼香・通夜振る舞い・退席の場面で使える挨拶のコツと例文を体系的にまとめました。
結論としては「短く、静かに、押し付けない」が鉄則です。宗教観や価値観が異なる中でも失礼になりにくい中立表現を中心に、具体的なフレーズを多数掲載。初めての方でも、そのまま使える実務的なガイドです。
通夜の挨拶マナーの基本
通夜の場では、長いスピーチや慰めの言葉よりも、簡潔な弔意と相手を気遣う一言が望まれます。声量は控えめ、語尾はやわらかく、断定を避ける表現(「と存じます」「かと存じます」)を選ぶのが安全です。身体の向きは相手に対して少し斜め、会釈は深すぎず静かに行います。
言葉だけでなく、立ち居振る舞いも挨拶の一部です。立って話す時間は30〜60秒以内を目安にし、混雑時は一言で切り上げます。宗派がわからない場合は宗教固有の言い回しを避け、「ご会葬ありがとうございます」「心よりお悔やみ申し上げます」といった中立表現で統一しましょう。
観点 | 基本 | 避けたい例 |
---|---|---|
長さ | 一言〜30秒(長くても60秒) | 長い弔話・故人の武勇伝の羅列 |
声量・態度 | 静か・ゆっくり・相手の眼前で大きな動作をしない | 肩を叩く・抱き寄せる・拍手 |
言葉選び | 中立的・控えめ・断定を避ける | 宗教観の押し付け・原因詮索・励ましの強要 |
声の大きさと姿勢
周囲に配慮した小声で、語尾をやわらかく。上半身はやや前傾、手元は身体の前で静かに添えると落ち着いて見えます。
時間の目安
混雑時は「一礼+一言」で十分。親しい関係でも60秒を超えないように配慮し、通夜振る舞いで改めてご挨拶するとスマートです。
中立表現の基本
「心よりお悔やみ申し上げます」「ご会葬ありがとうございます」「寒暖厳しき折、どうぞご自愛ください」など、宗派に左右されない表現を軸にします。
遺族(喪主・親族)の挨拶:場面別ポイントと例文
遺族側は、会の基調を作る立場です。喪主の言葉は簡潔かつ整然とし、参列への感謝と故人への想いを短く伝えます。親族は受付や案内、通夜振る舞いでの声掛けを担当することが多いため、統一トーンでの応対が大切です。
大勢の前での挨拶は文章を暗記するより、骨子(御礼・故人への言葉・連絡事項)のみを押さえると、状況に応じて自然に話せます。以下の例文はそのまま使える汎用型です。
受付・開式前の一言
「本日はご多用のところ、◯◯の通夜にお運びいただき、誠にありがとうございます。足元の悪い中、恐れ入ります。どうぞ中へお進みください。」
読経後の喪主挨拶(30〜60秒)
例:「本日はご多用のところ、故◯◯の通夜にご会葬賜り、厚く御礼申し上げます。生前は皆さまより格別のご厚情を賜りました。家族一同、深く感謝しております。簡単ではございますが、焼香の後、通夜振る舞いの席を用意いたしました。ご無理のない範囲でお付き合いください。本日は誠にありがとうございました。」
通夜振る舞いでの声掛け
「本日はお越しいただき、ありがとうございます。お時間許すようでしたら、どうぞお召し上がりください。お急ぎの方はどうぞご遠慮なくお申し付けください。」
辞退者への返答
「ご丁重なお気遣い、ありがとうございます。お疲れもおありでしょうから、どうぞお気をつけてお帰りください。」
弔電披露後の返礼(個別)
「先ほどはご丁重な弔電を賜り、誠にありがとうございました。生前のご厚情に、家族一同、心より感謝申し上げます。」
参列者の挨拶:立場別の使い分け(友人・会社関係・近隣・親族)
参列者は、弔意と労いを短く伝えるのが基本です。相手の反応を待たせないため、名乗り→弔意→労い→締め、の4点を30秒以内にまとめましょう。関係が近いほど言葉が重くなりがちですが、原因や病状には触れません。
会社関係や取引先などフォーマル度の高い場面では、組織名と氏名を先に名乗ります。友人や近隣は、思い出を長々と語らず、「お世話になりました」の一言で十分に心が伝わります。
友人・学友の例
受付・焼香前後:「このたびはご愁傷さまでございます。◯◯さんには学生のころから大変お世話になりました。心よりお悔やみ申し上げます。」
会社関係(上司・同僚・部下)の例
名乗りから:「◯◯株式会社◯◯部の△△と申します。このたびは誠にご愁傷さまでございます。生前は職場でも多くを学ばせていただきました。心よりお悔やみ申し上げます。」
取引先・顧客の例
「◯◯社の△△でございます。日頃より故人様には格別のご厚情を賜りました。謹んでお悔やみ申し上げます。ご家族皆さま、どうぞご自愛ください。」
近隣・町内会の例
「お隣の△△でございます。日頃から家族ともどもお世話になりました。突然のことで、心よりお悔やみ申し上げます。何かお手伝いできることがありましたら、どうぞ遠慮なくお申し付けください。」
親族(いとこ・甥・姪など)の例
「このたびは誠にご愁傷さまでございます。小さな頃から可愛がっていただきました。心よりご冥福をお祈り申し上げます。」
場面別の挨拶と動き:受付・焼香・通夜振る舞い・退席
挨拶は言葉だけでなく「順番」「所作」とセットで考えると失敗が減ります。受付では一礼→名乗り→香典→記帳→着席、焼香では列の進行を妨げず静かに退く、通夜振る舞いは案内に従い短時間で辞する、退席は混雑を避けて静かに、が基本線です。
迷ったら、会場係や葬儀社スタッフに小声で確認しましょう。判断に迷う時間を短くでき、結果として所作が美しく整います。
場面 | 一言テンプレ | 所作のポイント |
---|---|---|
受付 | 「このたびはご愁傷さまでございます。◯◯の△△と申します。」 | 袱紗から香典を出し両手で差し出す→記帳→会釈 |
焼香前後 | 「心よりお悔やみ申し上げます。」 | 列を乱さず、所作は小さく静かに。終えたら半歩下がり会釈 |
通夜振る舞い辞退 | 「恐縮ですが所用により、本日は失礼いたします。」 | 短く礼を述べて退出。長話は避ける |
退席 | 「本日はありがとうございました。どうぞご自愛ください。」 | 出入口で滞留しない。コートはホール外で着用 |
焼香の順番待ちでの配慮
スマホは完全サイレント、私語は慎む。前後の間隔を取り、列を詰め過ぎないよう注意します。
弔問のみ(短時間)の伝え方
「仕事の都合で失礼いたします。焼香のみさせていただきます。」と受付で一言添えると案内がスムーズです。
避けたい表現と言い換え例
弔辞では、相手の心情に踏み込み過ぎる表現、宗教観・死生観を断定する表現、原因詮索、励ましの強要は避けます。「頑張って」は相手に負担を与える場合があり、「お気持ちが少しでも安らぎますように」などの中立的な言い換えが安心です。
また、重ね言葉(重々・ますます等)や祝い事を連想させる語は避けると無難です。以下の表は、よくあるフレーズの置き換えガイドです。
避けたい表現 | 言い換え例 | 理由 |
---|---|---|
「どうして亡くなったのですか?」 | (触れない)/「お辛い中、恐れ入ります。」 | 原因詮索は配慮を欠く |
「頑張ってください」 | 「ご無理のないようお過ごしください」 | 努力の強要に聞こえる |
「天国でお幸せに」 | 「安らかなお眠りをお祈りいたします」 | 宗教観の押し付けを避ける |
「おめでたい席ではありませんが…」 | (前置き不要) | 祝い語の連想を避ける |
中立的な締めの一言
「寒暖厳しき折、どうぞご自愛ください」「お疲れが出ませんように」など体調を気遣う言葉で締めると好印象です。
弔電・メール・メッセージカードの文例
直接の挨拶が難しい場合は、弔電や手紙で弔意を伝えます。メールやビジネスチャットは緊急連絡として事前に断りを入れつつ簡潔に使い、後日改めて手紙や弔電で正式に伝えるのが望ましい運用です。
表記は常用漢字で簡潔に、顔文字・絵文字は使用しません。ビジネスでは会社名・部署・氏名を明記し、到着時刻に配慮します。
弔電(標準版)
「ご逝去の報に接し、謹んでお悔やみ申し上げます。生前のご厚情に深く感謝申し上げ、安らかなお眠りをお祈りいたします。」
弔電(取引先・フォーマル)
「ご尊父様ご逝去の報に接し、謹んでお悔やみ申し上げます。長年のご交誼に深謝し、安らかなご冥福を心よりお祈り申し上げます。」
メール/チャット(緊急の連絡のみ)
件名:お悔やみ申し上げます(◯◯株式会社 △△)
本文:突然のご連絡失礼いたします。このたびはご逝去の報に接し、謹んでお悔やみ申し上げます。通夜には◯日◯時に参列の予定です。取り急ぎご連絡まで。返信は不要です。
会社・団体としての挨拶・表記の作法
会社・団体として参列する場合は、代表者が名乗り、簡潔な弔意と労いを述べます。供花・弔電・香典は名義を統一し、肩書や部課名を省略せず記すと照合がスムーズです。
会場での列席は、上位者が中央寄り、その他は後方にまとまると動きやすくなります。通夜振る舞いへの参加は代表者に任せ、長居しないのがマナーです。
代表挨拶(会社)
「◯◯株式会社の△△でございます。このたびは謹んでお悔やみ申し上げます。生前は格別のご指導を賜りました。心より御礼申し上げます。」
供花の札・弔電の名義表記
「◯◯株式会社 代表取締役 △△ △△」「◯◯部 有志一同」など、組織名→肩書→氏名の順で統一します。
香典辞退の案内がある場合
案内に従い香典は持参しません。弔電や供花の可否も会場規定に合わせ、勝手な持ち込みは避けます。
状況別の一言テンプレート集
そのまま使える短文テンプレートを、状況別にまとめました。必要に応じて主語や関係の言い回しを調整してください。いずれも30秒以内に収まる分量です。
迷ったときは「ご愁傷さまでございます/心よりお悔やみ申し上げます/どうぞご自愛ください」の三点セットで十分です。
- 突然の訃報に:「突然のことで、お力落としのほどお察し申し上げます。心よりお悔やみ申し上げます。」
- 高齢のご逝去に:「ご長寿でいらっしゃいましたが、寂しさはいかほどかと存じます。謹んでお悔やみ申し上げます。」
- ご病気療養後に:「長らくご養生のことと拝察いたします。安らかなお眠りをお祈り申し上げます。」
- 参列短時間:「恐れ入りますが、焼香のみで失礼いたします。心よりご冥福をお祈りいたします。」
- 通夜振る舞い辞退:「お気遣いありがとうございます。所用により本日は失礼いたします。」
まとめ:短く、静かに、押し付けない
通夜の挨拶は、気持ちを込めつつも短く簡潔に、静かな声量で伝えるのが最善です。宗教や価値観が異なる場では、中立的な表現を選ぶことで、どなたにも失礼のない挨拶になります。迷ったら「御礼・弔意・労い」の三点を30秒で。
遺族側は会の基調を整え、参列者側は列の流れを妨げない配慮を最優先に。所作の静けさと言葉の端々の丁寧さが、最も雄弁な“挨拶”になります。
よくある質問(FAQ)
通夜での挨拶に関する「言い方」「長さ」「宗教不明時の表現」「会社関係の名乗り」「通夜振る舞いの辞退」など、迷いやすいポイントをQ&Aで整理しました。会場の指示と喪家の方針が最優先です。
Q1. 挨拶はどのくらいの長さが適切?
基本は一言〜30秒、長くても60秒以内。混雑時は「一礼+一言」で十分です。
Q2. 宗教や宗派が分からない場合の無難な表現は?
「心よりお悔やみ申し上げます」「お力落としのほどお察し申し上げます」「どうぞご自愛ください」などの中立表現を用います。
Q3. 遺族への最初の声掛けは何と言えばよい?
「このたびはご愁傷さまでございます。◯◯(会社名/関係)の△△と申します。」と名乗り→一言の弔意→会釈の順で。
Q4. 焼香の前後、何か一言必要?
必須ではありませんが、前後どちらかで「心よりお悔やみ申し上げます。」と短く伝えるのが無難です。
Q5. 会社・取引先として参列する時の名乗り方は?
「◯◯株式会社◯◯部の△△でございます。このたびは誠に…」と、組織→部署→氏名の順で簡潔に名乗ります。
Q6. 避けるべき言い回しは?
原因の詮索(「なぜ」)や励ましの強要(「頑張って」)、宗教観の押し付け(「天国で…」)は避け、中立表現に置き換えます。
Q7. 通夜振る舞いを辞退したい時の言い方は?
「お気遣いありがとうございます。所用により本日は失礼いたします。」と短く丁寧に伝えます。
Q8. 遅刻・弔問のみの場合の挨拶は?
受付で「恐れ入ります、焼香のみで失礼いたします。」と告げ、焼香後は静かに退席します。
Q9. 親しい友人として思い出を語ってもいい?
通夜の場では長話は避け、30秒以内の短い一言に。思い出話は後日の場やご家族のご都合に合わせて。
Q10. メールや弔電の文面はどう書く?
弔電は「謹んでお悔やみ申し上げます」「安らかなお眠りをお祈りいたします」など定型で簡潔に。メールは緊急連絡のみ、後日あらためて文書が望ましいです。
Q11. 子ども・高齢者同伴時の挨拶のコツは?
出入口近くの席を選び、挨拶はさらに短く。体調最優先で、必要なら途中退席の断りを一言添えます。
Q12. 受付で香典を渡す時に添える一言は?
「このたびはご愁傷さまでございます。◯◯の△△でございます。お納めください。」と添え、両手で静かに差し出します。