位牌の役割と選び方|白木位牌から本位牌への移行まで

位牌(いはい)は、故人の戒名(法名)や俗名を記し、日々の供養のよりどころとする大切な礼拝具です。通夜・葬儀の場で用いる「白木位牌」と、以後の供養で用いる「本位牌」は役割や作り方が異なり、移行のタイミングにも地域差があります。

本記事では、位牌の意味と役割、白木から本位牌への移行時期、表記(戒名・法名・俗名・日付)の基本、サイズ・材質・形状の選び方、価格相場、安置場所やお手入れ、古い位牌の整理までを実務目線で網羅。初めての喪主・ご家族でも迷わないよう、表やチェックリストでわかりやすく解説します。

位牌とは(意味・役割)

位牌は、故人の名を記した礼拝具であり、遺族が日々の読経・焼香・合掌を捧げる対象です。位牌そのものが故人と同一という意味ではありませんが、心を向ける“依り代(よりしろ)”として、追善供養の中心的役割を果たします。

形式は宗派・地域で幅があり、表記や配置の細部は寺院や仏壇店の指示が最優先です。本記事の内容は一般的な実務目安であり、最終判断は菩提寺(依頼寺院)や会場案内に従ってください。

位牌が担う三つの役割

①故人を偲ぶ拠点(毎日の礼拝)/②忌日・年忌法要の秩序付け(表記の統一)/③家の歴史の継承(過去帳・位牌の管理)。

白木位牌とは(葬儀〜四十九日まで)

白木位牌は、通夜・葬儀〜四十九日までの仮位牌として用いる簡素な木製の位牌です。葬儀当日までに葬儀社が準備し、祭壇に安置して読経・焼香の対象とします。地域や宗派により、白木位牌を複数用意する場合もあります。

四十九日(地域により三十五日)を区切りに、本位牌へ“魂入れ(開眼)”をして白木位牌は“魂抜き(閉眼)”ののち、菩提寺でお焚き上げ・納めを依頼するのが一般的です。写真撮影や長期保管は避け、取り扱いは丁寧に行いましょう。

使用期間と安置場所

通夜・葬儀中は祭壇中央付近、以後は仏壇または後飾り祭壇に安置します。転倒・汚損を防ぐため、水平で安定した場所を選びます。

白木位牌の表記

「戒名(法名)/俗名/没年月日/行年(享年)」などを簡易表記します。表記の形式は会場と寺院の指示に合わせましょう。

本位牌とは(種類・選び方の全体像)

本位牌は、四十九日以降の長期供養で用いる正式な位牌です。材質や塗り、形状、サイズの選択肢が多く、仏壇の大きさ・家の内装・ご予算・宗派の方針を踏まえて選定します。最近は家具調仏壇に合わせたモダン位牌も普及しています。

選定の要は「サイズ」「材質(塗り・唐木)」「形状(デザイン)」「表記(彫り/書き)」の4点です。特にサイズは仏壇内の高さ・段配置と相性があるため、実測してから注文すると失敗が減ります。

本位牌の主な種類

塗り位牌(漆塗金箔)/唐木位牌(黒檀・紫檀)/モダン位牌(ウォールナット等)など。宗派の制約が少ない場合も、寺院の方針に合わせて選びます。

種類 特徴 長所 留意点
塗り位牌 漆塗り+金箔の伝統的意匠 格式が高く荘厳。黒塗金縁で読みやすい 傷に弱い・直射日光や乾燥に注意
唐木位牌(黒檀・紫檀) 銘木を生かした木地の質感 重厚で経年変化を楽しめる 湿度管理が必要。色味に個体差
モダン位牌 家具調に合うシンプル形状 省スペース・洋室と相性 家紋・金粉装飾の選択肢が少なめ

形状(代表例)

春日・勝美・猫丸・上等猫丸・葵角切・蓮付など。装飾の多寡で印象が変わるため、仏壇の意匠との調和を確認します。

材質の見極め

黒檀・紫檀は重く硬質で反りにくい反面、乾燥で割れやすい場合があります。塗りは艶やかで格式が高い一方、傷に弱いので取り扱いに注意しましょう。

サイズを決めるコツ

「札丈(ふだたけ:文字が入る板の高さ)」と「総丈(位牌全体の高さ)」の両方を確認し、上段棚の天井(宮殿)とのクリアランスを3〜5cm確保するのが目安です。

呼称サイズ 札丈の目安 総丈の目安 仏壇との相性目安
3.5寸 約10.5cm 約17〜18cm 小型〜上置き仏壇
4.0寸 約12.0cm 約20cm前後 上置き〜小型台付き
4.5寸 約13.5cm 約22〜23cm 中型台付き仏壇
5.0寸 約15.0cm 約24〜26cm 中〜大型仏壇

白木位牌から本位牌への移行(時期・段取り)

移行の標準は「四十九日法要(地域により三十五日)」です。法要の中で本位牌に開眼供養(魂入れ)をし、白木位牌は閉眼ののち、寺院でお焚き上げ等の処置を行います。親族の都合で百か日に繰り下げるケースもあります。

逆に、遠方親族の負担軽減から「葬儀日に繰り上げ法要+本位牌用意」を行う地域もあります。寺院と葬儀社の調整を早めに行い、表記原稿・彫りの納期を確保しましょう。

場面 推奨アクション メモ
葬儀終了〜一週間 寺院へ表記方針確認・仏壇採寸 サイズ・材質の候補決定
二〜三週間 位牌の発注(彫り/書き) 校正原稿を必ず確認
四十九日前 納品確認・開眼供養の段取り 白木の閉眼・納め先の確認

戒名(法名)が未定のケース

四十九日までに授与が間に合わない場合、俗名位牌で一時運用し、後日差し替え・彫り直しも可能です。寺院に手順を相談しましょう。

夫婦位牌・代々位牌への移行

夫婦で一基にまとめる場合は、左右の面に個別表記、正面を「先祖代々之霊位」とするなど複数方式があります。寺院方針と家族の希望を合わせて決定します。

表記と彫り(刻字)の基本ルール

正面に戒名(法名)+位号、側面・裏面に没年月日・俗名・行年(享年)を記すのが一般的です。浄土真宗は位号を付けず、法名二字(「釋○○」等)とする傾向が強いなど、宗派差があります。

書体は楷書が基本。金箔押し・白字彫り・書き文字(手書き)など、位牌の仕様と相性を見て決めます。校正段階で旧字体・異体字・漢字の新旧を必ず確認してください。

項目 表記例 備考
正面 〇〇院 △△ 居士/大姉 / 釋 △△(真宗) 宗派差に留意
側面・裏面 令和◯年◯月◯日 俗名◯◯ 行年◯◯ 西暦・和暦は統一
家紋・装飾 家紋蒔絵・金粉 省略可。仏壇意匠と調和

戒名・法名と俗名の併記

読みやすさ優先で側面・裏面へ俗名を記載する方式が一般的です。併記位置は寺院に確認しましょう。

年号・日付の表記

和暦・西暦は必ず統一します。旧字の「冥」など字形も校正段階で確認します。

先祖代々位牌の作り方

「先祖代々之霊位」を正面に記し、過去帳で個別の情報を管理する方式があります。家の管理体制に合わせて選びます。

価格相場と費用の考え方

価格はサイズ・材質・装飾・彫り方式で変動します。塗り位牌は工程が多く高め、唐木位牌は材の希少性で幅があります。モダンは装飾が少ない分、比較的抑えやすい傾向です。

彫り代や家紋蒔絵、急ぎ対応の有無も合計に影響します。納期は通常1〜3週間が目安ですが、地域・繁忙期・仕様で変わるため早めの手配が安心です。

項目 相場目安 備考
本位牌(3.5〜5.0寸) 2万〜12万円程度 塗り・唐木・モダンで差
彫り/書き(片面) 5千〜2万円 両面・家紋で加算
家紋蒔絵 5千〜3万円 手描・シールで価格差
特急仕上げ 無料〜2万円 店舗・時期による

購入先の比較

仏壇店(対面で採寸・校正が安心)/葬儀社(手配一括)/オンライン(選択肢多い・納期要確認)など。寺院との整合を最優先に。

コストを抑える工夫

サイズを仏壇に適正化して過剰装飾を避ける、家紋は後日追加、夫婦位牌で将来の追加刻字に備える等が有効です。

安置場所・お手入れ・防災

位牌は仏壇の最上段(ご本尊の手前または左右)に安置するのが基本です。直射日光・エアコンの風・加湿器の蒸気を避け、地震時の転倒防止策を講じます。家具調仏壇ではLEDの熱にも注意します。

お手入れは柔らかい乾拭きが基本。塗りは極細繊維の乾布、唐木は目に沿って軽く。洗剤・ワックスは変色の原因となるため避けます。年に一度は全体を点検し、ぐらつき・欠けを早期発見しましょう。

配置と向き

ご本尊を中心に、位牌は左右対称に配置。複数ある場合は原則として古いご先祖から内側・新しいものを外側へ並べます(地域差あり)。

日常の手入れ

手の脂を避け、持つときは台座を両手で支えます。金箔部分は擦らないように。

防災のポイント

耐震マット・滑り止めシートを台座に。転倒時の破損に備え、刻字の控え(写真)を保管します。

よくある迷いと解決策(Q&A形式)

位牌については「複数作るべきか」「古い位牌の整理」「集合住宅での安置」など迷いが多いテーマです。最終判断は寺院の方針を優先しつつ、家族の実情に合わせて落としどころを探しましょう。

迷ったときは「安全・礼節・継続可能性」の3基準で考えると、現実的な解が見つかります。

同時に複数作るべき?分家・分骨の場合

複数家庭で礼拝したい場合は、位牌を複製せず過去帳の写しを共有する方法もあります。物理的に二基作る場合は、寺院へ趣旨と安置先を伝えましょう。

古い位牌の整理(魂抜き・お焚き上げ)

破損・汚損・転居などで整理が必要な場合、寺院で閉眼供養(魂抜き)を行い、お焚き上げ・合祀等の方法を相談します。自己判断で廃棄しないこと。

喪主・家族の実務チェックリスト

発注前後の抜け漏れを防ぐ簡易チェックです。四十九日の2〜3週間前を目標に、表記原稿の確定とサイズ決定を終えておくと安心です。

「誰が決めるか」を明確にし、窓口を一本化すると校正ミスが激減します。旧字体・家紋・年号の統一は必ず最初に確認しましょう。

  • 【宗派確認】浄土真宗=法名・位号無し等の方針確認
  • 【仏壇採寸】総高さ・段間・奥行・幅を実測
  • 【サイズ決定】3.5〜5.0寸の中から仏壇に合うもの
  • 【材質選定】塗り/唐木/モダン(内装との調和)
  • 【表記原稿】戒名(法名)・俗名・没日・行年・家紋
  • 【書体・彫り】楷書/白字彫り/金箔/手書きの選択
  • 【納期確認】法要日から逆算(校正→彫り→納品)
  • 【開眼・閉眼】本位牌の開眼、白木の閉眼の段取り
  • 【安置・防災】設置位置、耐震対策、直射日光回避
  • 【記録保管】表記原稿・完成写真・購入情報の保存

連絡テンプレ(寺院・仏壇店)

件名:本位牌の刻字・開眼について相談(◯◯家)
本文:
・宗派/菩提寺:◯◯宗 ◯◯寺(担当:◯◯様)
・法要予定:四十九日(◯月◯日◯時)
・表記:戒名(法名)/俗名/没日/行年/家紋の有無
・位牌仕様:サイズ◯寸/材質(塗り・唐木・モダン)/書体・彫り
・仏壇寸法:高さ◯cm/奥行◯cm/幅◯cm
・納期希望/校正方法/当日の開眼・閉眼の流れの確認

まとめ

位牌は、家族が故人を偲び祈る“拠点”です。白木位牌から本位牌への移行は四十九日が目安ですが、最優先は寺院の方針。表記・サイズ・材質を早めに整え、校正と納期管理を丁寧に行えば、当日の法要は落ち着いて進みます。

要点:①宗派と方針確認 ②仏壇採寸→サイズ決定 ③表記原稿を家族で統一 ④納期確保と開眼・閉眼の段取り ⑤安置・お手入れ・防災までセットで準備。

よくある質問(FAQ)

位牌(白木→本位牌の移行時期・表記の決め方・サイズ選定・夫婦/代々位牌・戒名未定時の対応・白木位牌の納め方・お手入れ・安置場所・購入/納期の目安・オンライン購入の注意点 など)で迷いやすい点をQ&Aで整理しました。最終判断は菩提寺(依頼寺院)と仏壇店の指示を優先してください。

Q1. 白木位牌から本位牌へは、いつ移行するのが一般的?

一般には四十九日法要で本位牌へ開眼(魂入れ)し、白木位牌は閉眼(魂抜き)後にお焚き上げ等で納めます。地域によって三十五日や百か日へ調整する例もあるため、寺院と日程を確認しましょう。

Q2. 白木位牌は処分してよい?自分で廃棄しても大丈夫?

自己判断で廃棄は避け、寺院で閉眼供養のうえ、お焚き上げ・納めを依頼します。宗派や寺院で手順が異なるため、方法と費用を事前に相談しましょう。

Q3. 戒名(法名)が間に合わない場合、位牌はどうする?

俗名位牌で一時運用し、授与後に本位牌へ刻字(差し替え/彫り直し)する方法があります。四十九日に間に合わない時は、寺院と刻字スケジュールを調整してください。

Q4. 表記はどこまで入れる?(戒名・俗名・没日・行年など)

正面に戒名(法名)+位号、側面/裏面に没年月日・俗名・行年(享年)が一般的。浄土真宗は位号を付けない傾向があるため、寺院の指示を優先します。

Q5. サイズはどう選ぶ?仏壇に対しての目安は?

「札丈(文字面)」と「総丈(全高)」を確認し、仏壇の天井(宮殿)との3〜5cmの余裕を目安に選定。上置きは3.5〜4.0寸、中〜大は4.5〜5.0寸が目安です。

Q6. 夫婦位牌や先祖代々位牌にまとめられる?

可能です。夫婦位牌は左右面や裏面に個別刻字、代々位牌は正面を「先祖代々之霊位」として過去帳で個別管理する方式が一般的。寺院と表記方針を合わせましょう。

Q7. 本位牌の納期はどれくらい?四十九日に間に合わせるコツは?

通常1〜3週間。繁忙期や家紋・両面彫りで延びることがあります。葬儀後1週間以内にサイズ・表記原稿を確定し、校正の往復を素早く行うと間に合いやすくなります。

Q8. オンラインで購入しても大丈夫?注意点は?

可能ですが、宗派方針との整合、刻字の校正、仏壇サイズ適合、開眼供養の段取りを事前に確認。到着時に傷・ぐらつきを点検し、不備はすぐ連絡しましょう。

Q9. お手入れの基本は?洗剤やワックスは使える?

乾拭きが基本。塗り位牌は極細繊維で優しく、唐木は木目に沿って。洗剤・ワックスは変色の原因になるため避け、直射日光・空調の風・過度な加湿を避けます。

Q10. 位牌の置き場所や向きに決まりはある?

ご本尊を中心に、位牌は左右対称に。複数の場合は古いご先祖を内側、新しいものを外側に並べる運用がよく見られます(地域差あり)。耐震対策も忘れずに。

Q11. 家紋や金箔装飾は必須?コストを抑えるには?

必須ではありません。初回は必要最小限で作成し、家紋や蒔絵は後から追加する方法も。サイズの過大化を避けるだけでも費用と取り回しが安定します。

Q12. 古い位牌の整理や引っ越し時はどうする?

寺院で閉眼供養を行い、お焚き上げ・合祀・保管方法を相談。引っ越し時は緩衝材でしっかり固定し、到着後に位置と水平を確認します。刻字の控え(写真)を保管しておくと安心です。



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