合掌(がっしょう)は、両の掌を胸の前で静かに合わせ、故人やご本尊に敬意と感謝、祈りを捧げる所作です。大きな動作や声を伴わないからこそ、姿勢・呼吸・間(ま)に心を込めることが大切。初めてでも、基本の流れとタイミングを押さえれば落ち着いて臨めます。
この記事では、合掌の意味と正しい手順、通夜・告別式・各種法要でのタイミング早見表、宗派・宗教ごとの違い、数珠の扱い、よくあるNGと回避策、立場別のポイントまでを網羅。現場ですぐ使える挨拶フレーズも添え、迷いを減らします。
合掌の意味(宗教的・心理的な位置づけ)
合掌は仏教で広く用いられる礼法で、右手と左手を合わせることで「自他不二(じたふに)」、すなわち自分と他者・生者と死者の隔てを越えて敬意を表す象徴的な動作とされています。音や派手な動きを伴わないため、静けさの中で心を整える効果が高く、場を乱しません。
心理面でも、掌を合わせ胸元で呼吸を整えることは、悲嘆の中で気持ちを鎮め、亡き人への思いを言葉に頼らず伝える助けになります。形式にとらわれ過ぎず、「静か・丁寧・短く」を合言葉にすれば、宗派や地域の違いがあっても大きな失礼は避けられます。
合掌が象徴するもの
掌を合わせる行為は、祈り・感謝・謝意の集中を意味します。片手は自分、もう片手は故人・ご本尊・縁ある人々を表し、それらを一つに結ぶ意と理解すると所作に迷いがなくなります。
合掌の基本姿勢と手順
合掌は「姿勢→手→視線→呼吸→一礼」の順で整えると美しく決まります。背筋を伸ばし、肩の力を抜き、踵(かかと)とつま先のバランスを安定させてから手を合わせるのがコツです。立礼・座礼いずれも、肘を張らず肘下を自然に落とし、手は胸の正中線上に置きます。
掌は軽く触れる程度に合わせ、指はそろえて上向き気味に。親指の腹が胸の中央(みぞおち〜鎖骨の間)に近づく高さが目安です。目線はやや下げ、遺影またはご本尊に向けたら、鼻から静かに一呼吸(1〜2呼吸)置き、短く一礼して終えます。
立礼の合掌(起立時)
足は拳一つ分に開き、背筋を伸ばす→掌を胸前で合わせる→1〜2呼吸→軽く一礼→静かに手を下ろす。荷物は足元へ、衣擦れ・金具音に注意します。
座礼・正座の合掌
膝の上で一度手を整え、背筋を伸ばしてから胸前で合掌→1〜2呼吸→軽く会釈→静かに手を膝へ戻します。和室の畳では足音を立てずに。
合掌のタイミング早見表(葬儀・法要の各場面)
「いつ合掌するか」を知っておくと、当日の緊張が大幅に軽減されます。下表は一般的な仏式の目安です。会場アナウンス・僧侶の指示が最優先のため、異なる案内があればそちらに従ってください。
迷った場合は、焼香の直前・直後、喪主挨拶の直後、入退場時の一礼に合わせて短く合掌すれば過不足がありません。読経中の大きな動作は避け、合図に合わせて静かに行います。
場面 | タイミングの目安 | ポイント |
---|---|---|
入場・着席 | 席に着く前に遺影・祭壇へ一礼(必要に応じて短く合掌) | 導線を妨げず、荷物は足元へ |
読経 | 合図に従い、静かに合掌(持続は1〜2呼吸) | 大きな動作・姿勢の揺れは避ける |
焼香 | 焼香前に一礼→焼香→合掌→一礼 | 回数は会場の指示に従う |
僧侶退場・閉式 | 合図に合わせて短く合掌後、一礼 | 拍手はしない |
墓前・納骨 | 供花・線香後に合掌 | 風で灰が舞うため動作は小さく |
受付〜着席の合掌
受付で香典を渡し着席する前、通路の邪魔にならない位置で祭壇へ軽く一礼し、必要に応じ短く合掌します。長居は避けましょう。
焼香前後の合掌
焼香台の手前で一礼→焼香→胸前で1〜2呼吸の合掌→軽く一礼。列の流れを止めないことが最重要です。
閉式時の合掌
司会や僧侶の合図に合わせ、短く合掌してから一礼。拍手・歓声・カメラの使用は控えます。
宗派・宗教ごとの違い
仏式では合掌が基本ですが、宗派により細部が異なります。浄土真宗は焼香時に抹香を額へ「いただかない」ことが多いなど、合掌の角度・長さ・言葉の添え方にも差があります。会場での説明・僧侶の指示が最優先です。
神式やキリスト教式では、合掌の代わりにそれぞれの作法(玉串奉奠や黙祷・祈り)が中心になります。宗教色が不明な場合は「静かな一礼+短い黙祷」にとどめると安全です。
形式 | 基本の所作 | 備考 |
---|---|---|
仏式(各宗派) | 胸前で合掌(1〜2呼吸) | 焼香前後に実施。詳細は寺院指示に従う |
神式 | 二拝二拍手一拝が原則だが、葬儀では音を立てない忍び手 | 祭壇前で深い黙礼+忍び手が一般的 |
キリスト教(カトリック/プロテスタント) | 黙祷・祈り(胸の前で手を組む場合あり) | 十字を切るのはカトリックの慣習。会場案内に従う |
仏式内の違い(例)
浄土真宗は焼香1回が多く、抹香を額にいただかない傾向。禅宗・真言宗ではいただく所作が見られます。合掌そのものは共通して静かに短くが基本です。
神式の忍び手
柏手(かしわで)は音を立てない忍び手にし、深い黙礼を添えます。拍手音は弔事では避けましょう。
キリスト教式の黙祷
黙祷の姿勢を取り、祈りの言葉は心の中で。周囲と歩調を合わせ、目立つ動作は控えます。
数珠(じゅず)の持ち方と合掌の連動
数珠は合掌を支える道具で、左手に掛ける(宗派や地方で右手の流儀もある)運用が一般的です。両手合掌では、数珠を親指に軽く掛け、指を揃えて掌の間に遊ばせないようにします。
立礼・座礼どちらでも、数珠は音を立てずに扱い、席の移動時に床へ落とさないよう注意します。腕に巻き付ける・振り回すなどは厳禁です。
片手合掌・持ち替えのコツ
荷物や杖がある場合は、無理に両手を使わず片手で軽く胸前に手を添えるだけでも構いません。数珠は左手に残し、短い会釈と併用します。
お辞儀の角度と使い分け(合掌とセットで)
合掌の前後に添えるお辞儀は、角度で相手や場への敬意を表します。基本は会釈(約15°)・敬礼(約30°)・最敬礼(約45°)の3種類を覚え、場に応じて選びましょう。
受付や係の方へは会釈、祭壇・僧侶・喪主へは敬礼〜最敬礼が目安。長く深すぎる礼は動線を止める恐れがあるため、間を大切に短く丁寧に行います。
種類 | 角度目安 | 主な場面 |
---|---|---|
会釈 | 約15° | 受付での挨拶、席を立つ/戻るとき |
敬礼 | 約30° | 焼香台の手前、喪主・遺族への挨拶 |
最敬礼 | 約45° | 祭壇・僧侶退場時、出棺時の見送り |
よくあるシーンでの使い分け
焼香台の手前で敬礼→焼香後に合掌→一礼、退席時は喪主席へ敬礼。受付や導線上では会釈に留め、滞留しないのが礼儀です。
よくあるNGと回避策
合掌は小さな所作ですが、音・香り・視線・荷物の置き方で印象が大きく変わります。強い香水やじゃらじゃらしたアクセサリー、スマホの通知音は避け、視線は低めに、動作は小さくが基本です。
また、掌を過度に押し付ける・指が広がる・胸から離れて高く掲げる・過度に長い合掌は不自然に映ります。1〜2呼吸で区切り、列の流れを止めないようにしましょう。
- スマホはアラーム含め完全サイレントに
- 香りが強い整髪料・柔軟剤は控える
- 荷物は足元へ、椅子の背に掛けて落とさない
- 写真・動画撮影は原則不可(許可時も最小限)
音・香り・視線のマナー
衣擦れや金具音を抑え、視線はやや下へ。香りは無臭を基本にし、咳・くしゃみはハンカチで静かに覆います。
スマホ・荷物の扱い
通知はオフ、手に持たない。バッグは床または椅子の下へ。焼香列でゴソゴソ探さないよう事前に整えます。
立場別のポイント(喪主・会社参列・子ども/高齢者)
喪主・遺族は参列者の視線が集まるため、合掌のタイミングを司会の合図に合わせ、動作をややゆっくりに。会社参列は上位者に歩調を合わせ、団体で列を崩さないことが肝要です。
子どもや高齢者は無理をせず、短い合掌や黙礼だけでも十分に敬意は伝わります。必要に応じて席を出入りしやすい位置に配席をお願いするとスムーズです。
喪主・遺族の所作
手本となる意識で、合掌は1〜2呼吸を基準に。過度に長引かせず、式進行を優先します。
会社関係の参列
代表者の動作に合わせ、焼香列では会釈を省略しない。名刺交換や長話は行いません。
子ども・高齢者への配慮
保護者や同伴者が隣に立ち、短時間での参列を前提に。合掌は短く、退出の導線を確保します。
ひと言を添える挨拶例(合掌と一礼のあとに)
合掌は言葉を要しませんが、受付や焼香後などで一言添える場面もあります。声量は抑え、短く中立的な表現にとどめます。相手の反応を求めないのもマナーです。
以下の例は、宗教・宗派を問わず使いやすい言い回しです。深追いせず、会釈とともに静かに離れましょう。
- 「このたびは誠にご愁傷さまでございます。」
- 「心よりお悔やみ申し上げます。」
- 「在りし日のお姿を偲び、安らかなお眠りをお祈りいたします。」
- 「皆さま、どうぞご自愛ください。」
受付での一言
「このたびはご愁傷さまでございます。お受け取りください。」と香典を差し出し、深追いせず着席へ。
焼香後の一言
喪主席に近すぎない位置で軽く会釈。「お疲れのところ失礼いたします。心よりお悔やみ申し上げます。」
退席時の一言
「本日はありがとうございました。どうぞご自愛ください。」と最敬礼に近いお辞儀で静かに退出します。
特別な状況での合掌(体調・宗教不明・屋外)
体調や怪我で手が合わせにくい場合は、胸前での黙礼だけでも構いません。宗教不明の式では、合掌を強要せず、会場案内に合わせた黙礼・黙祷に留める配慮が望まれます。
屋外(墓前・納骨堂)では風雨や足場に注意。足元を安定させ、動作は小さく。傘は他者に滴がかからない位置・角度に調整します。
マスク着用時の配慮
マスクは着用のままで構いません。声量を上げず、目線と会釈で感情を伝えます。
まとめ(直前チェックリスト)
合掌は「静か・丁寧・短く」を守れば失敗しません。姿勢を整え、胸前で1〜2呼吸の合掌、前後の一礼を添えるだけで十分に敬意は伝わります。迷ったら、会場の案内と前の方の所作に合わせましょう。
出発前チェック:①数珠・香典袋・袱紗 ②黒無地のハンカチ ③スマホ完全サイレント ④香りの強いものを避ける ⑤焼香・合掌の導線を入場前に確認。
よくある質問(FAQ)
合掌(意味・時間・角度・数珠・片手対応・宗派差・神式/キリスト教の違い・焼香との順序・マスク着用・子ども/高齢者配慮・写真/SNS可否など)で迷いやすい点をQ&Aで整理しました。最終判断は会場アナウンス・僧侶の指示を優先してください。
Q1. 合掌は何秒くらいが適切?長いほうが丁寧?
目安は1〜2呼吸(約3〜6秒)。むやみに長い合掌は進行を妨げる場合があります。合図と列の流れを優先しましょう。
Q2. 合掌の手の位置と角度は?胸より高いと失礼?
手は胸の正中線上、親指の腹がみぞおち〜鎖骨の間に来る高さ。顔の前まで高く上げる必要はありません。指はそろえ、肘は張らずに。
Q3. 数珠はどちらの手?どう持つのが正しい?
一般的には左手に掛け、両手合掌時は親指に軽く掛けて掌の間で遊ばせないようにします(地域差あり)。音を立てない扱いが最優先です。
Q4. 片手しか使えない・荷物がある場合は?
無理に両手を合わせる必要はありません。胸前で片手を添える+会釈で敬意は伝わります。杖や介助具を優先してください。
Q5. 合掌のタイミングはいつ?焼香の前後は?
基本は焼香前に一礼→焼香→合掌→一礼。入退場・僧侶退場・墓前でも合図に合わせて短く合掌します。
Q6. 宗派で合掌の仕方は変わる?
合掌自体は共通ですが、焼香回数や「抹香を額にいただく」所作に差があります。迷ったら前の方と会場の指示に合わせましょう。
Q7. 神式・キリスト教式でも合掌してよい?
神式は黙礼+忍び手、キリスト教は黙祷(手を組む等)が一般的。宗教色が不明な場合は黙礼に留めるのが安全です。
Q8. マスク着用時はどうする?外すべき?
外す必要はありません。声量を上げず、視線と会釈で想いを伝えます。咳やくしゃみはハンカチで静かに覆います。
Q9. 子ども・高齢者にはどう教える?
短い合掌(1呼吸)で十分。保護者が隣で手本を示し、無理はさせない。高齢者は着席のまま黙礼だけでも失礼ではありません。
Q10. 合掌中に目は閉じる?開ける?
軽く伏し目がちにするのが無難。長く目を閉じて動作が止まると列の流れを妨げることがあります。
Q11. 写真撮影やSNSでの投稿は?
原則不可。許可があっても最小限に留め、個人特定・位置情報の投稿は避けます。式中の撮影は控えましょう。
Q12. 合掌の前後のお辞儀はどのくらい?
祭壇・僧侶・喪主には敬礼(約30°)、導線上は会釈(約15°)が目安。最敬礼(約45°)は出棺時など特別な場面に。