「弔辞(ちょうじ)」と「弔電(ちょうでん)」は、どちらも故人への哀悼を伝える大切な手段ですが、役割や使われる場面、作法は大きく異なります。突然依頼を受けて戸惑わないよう、違いと準備の手順を理解しておくと安心です。
本記事では、弔辞と弔電の目的・進行上の位置づけ・作法を一覧で比較し、依頼された直後にやること、文面の型、立場別の例文、読み上げ方のコツ、弔電の宛名・送付マナーまで、今日すぐ使える実務ガイドとしてまとめました。
弔辞と弔電の違い(目的・場面・フォーマル度)
弔辞は、告別式等の場で喪家の指名を受けた方が参列者の前で読み上げる「言葉の献花」です。故人との具体的な関わりを簡潔に語り、会場全体で別れを共有する役割があります。式全体の厳粛さに直結するため、構成・長さ・語彙の選び方に高い配慮が求められます。
弔電は、参列できない人を中心に、会場に届ける哀悼メッセージの電報です。司会が要点を代読し、喪家に控えが渡されます。短い文量で中立表現を用い、宗教・価値観の押し付けを避けるのが基本です。
比較項目 | 弔辞 | 弔電 |
---|---|---|
目的 | 会場で直接読み上げ、故人との関係を語る | 参列できない等の事情でも哀悼を伝える |
依頼・提出 | 喪家から依頼/承諾、原稿は事前提出が望ましい | 開式前必着を目安に手配。会場宛て |
文量目安 | 2〜3分(600〜800字程度) | 60〜120字程度(長文でも200〜300字) |
内容 | 感謝・思い出・功績・遺族への労り | 哀悼・感謝・遺族への労りを簡潔に |
語調 | 静かで丁寧、具体性は控えめに | 中立・簡潔・形式的 |
弔辞とは
喪家から指名された代表者が、式中に故人へ捧げる言葉です。個人的な思い出は短く、会場全体に共有できる普遍的な表現に整えるのが鉄則です。
弔電とは
電報サービス等で会場宛てに送る哀悼文です。司会が抜粋して読み上げるため、要点がすぐ伝わる短い文にまとめます。
依頼されたときの基本フロー(弔辞/弔電)
依頼を受けた直後は、まず「可否」と「締切」「宗派」「読み上げ時間(または文字数)」を確認します。次に、肩書き・関係性・故人名の正式表記を控え、連絡窓口を一本化して齟齬を避けます。
弔辞は原稿の事前共有と差し替え対応、弔電は配送タイミングの確保が肝です。以下の流れを目安に、早めの下書きと第三者チェックを行いましょう。
ステップ | 弔辞 | 弔電 |
---|---|---|
1. 受諾 | 可否・持ち時間・宗派・服装を確認 | 宛先(会場名/喪家名)・必着日時を確認 |
2. 情報確認 | 肩書・故人名の正式表記・関係性 | 受取人名義・読み上げ可否(非公開希望も想定) |
3. 下書き | 骨子→推敲→音読で2〜3分に調整 | 60〜120字で簡潔に、宗教中立表現 |
4. 提出 | 前日までに喪家/葬儀社へ共有 | 開式前必着で手配し控えを保存 |
弔辞を依頼されたときの段取り
骨子(①弔意②故人への感謝③一エピソード④遺族への労り⑤結び)を先に決め、600〜800字に収めます。音読で時間計測し、句点前後で息継ぎできるよう修正します。
弔電の手配フロー
会場名・「喪主◯◯様方」などの宛名を正確に。本文は中立表現で60〜120字を基本とし、読み上げの有無に関わらず心情が伝わる文に整えます。
文面の基本構成と書き方(共通の型)
弔辞・弔電ともに「弔意→故人への感謝(功績)→遺族への労り→結び」の4点で構成すると、過不足なく伝わります。関係が近いほど具体が増えがちですが、個人情報・病名・死因・内部事情の言及は避けます。
語彙は中立的で、宗教観の押し付けや励ましの強要を避けます。季節の言い回しは控えめにし、体調を気遣う締めで簡潔にまとめます。
文面テンプレート(骨子)
拝啓(※省略可)。このたびはご逝去の報に接し、謹んでお悔やみ申し上げます。/在りし日、◯◯様には◯◯の折に多大なるお力添えを賜りました。/急のことでご遺族のご悲嘆いかばかりかと拝察いたします。どうかご無理なさいませんようご自愛ください。/安らかなお眠りを心よりお祈り申し上げます。
避けたい表現・NGワード
原因詮索(「なぜ」「どうして」)、宗教観の押し付け(「天国でお幸せに」等)、励ましの強要(「頑張って」)、祝い語・重ね言葉(ますます・度々等)は避け、中立表現に置き換えます。
弔辞の例文集(立場別)
弔辞は会場全体に向けた言葉です。具体の思い出は「誰もが共有できる価値」に言い換え、2〜3分に収めます。句読点の位置と語尾の揺れを整えると、聞き手に優しい原稿になります。
以下は立場別の例。肩書・氏名・関係性は正式表記にし、固有名詞は最小限にとどめます。
親族代表(喪主家以外)
本日はご多用のところ、故◯◯のためにご会葬賜り、誠にありがとうございます。生前、◯◯は家族や周囲への心配りを欠かさない人でございました。ともに過ごした折々を思い起こすたび、その温かな人柄に支えられてきたことを痛感いたします。
残された私どもは、その教えを胸に、静かに歩みを進めてまいります。皆さまには、変わらぬご厚情を賜りますようお願い申し上げます。故人の安らかな眠りを心よりお祈りいたします。
友人・学友代表
このたびは誠にご愁傷さまでございます。私どもは学生時代より◯◯さんに多くを学びました。困難に向き合う姿勢と周囲への思いやりは、今も私たちの指針です。
別れは早く、言葉が見つかりませんが、いただいた数々のご恩を胸に、これからも恥じない日々を重ねてまいります。安らかなお眠りをお祈り申し上げます。
会社関係(上司・同僚代表)
◯◯株式会社◯◯部の△△と申します。故人◯◯さんは、常に誠実で、周囲の信頼の要でございました。数々の仕事を通じ、私どもは多くを学びました。
在りし日のお力添えに深く感謝申し上げるとともに、ご遺族の皆さまに心よりお悔やみを申し上げます。どうかご自愛のうえ、お体をおいといください。
弔電の例文集(関係別・宗教配慮)
弔電は要点重視で、60〜120字に収めるのが理想です。宗派が不明な場合は中立表現を用い、固有の宗教語を避けましょう。会社・団体名義は肩書・部署・氏名の順で統一します。
以下は汎用・仏式・神式・キリスト教に配慮した短文例です。いずれも簡潔さを最優先にしています。
汎用(宗派不問)
ご逝去の報に接し、謹んでお悔やみ申し上げます。生前のご厚情に深く感謝し、安らかなお眠りをお祈りいたします。ご遺族の皆さま、どうぞご自愛ください。
仏式に配慮
ご訃報に接し、謹んでお悔やみ申し上げます。在りし日のお人柄を偲び、心よりご冥福をお祈りいたします。
神式に配慮
ご逝去の報に接し、謹んでお悔やみ申し上げます。みたまの安らかならんことをお祈りいたします。
キリスト教に配慮
ご逝去の報に接し、心よりお悔やみ申し上げます。主の慰めがご遺族にありますよう、お祈りいたします。
弔辞の読み方・所作(長さ・速度・声量・視線)
読み上げは2〜3分、ゆっくりとした速度(1分あたり250〜300字)を目安にします。声量は「一番後ろに座る方へ届く大きさ」で、抑揚を最小限にし、語尾を落ち着かせます。
視線は原稿→客席→遺影の順にゆっくり移し、句点で短く呼吸。感情の昂ぶりで長い沈黙が続く場合は、最終段落へ飛ぶ合図を入れておくと安心です。
当日の持ち物と原稿形式
二つ折りA4の大きめ文字(16〜18pt)で印刷し、1段落=4〜5行に。太字・改行で息継ぎ位置を明示。黒いクリップボード・予備原稿・黒ペン・ハンカチを用意します。
読み上げのコツ
最初の一礼→「本日は…」で静かに開始。文末は言い切らず柔らかく収め、最後は遺影へ会釈して席へ戻ります。拍手を促す仕草は不要です。
弔電の送り方・宛名・差出人の書き方
宛名は「式場名+◯◯家 御葬儀 係」「◯◯斎場 ◯◯家 通夜式 受付」など、案内の指定に合わせます。喪主名が明示されていれば「◯◯◯◯様 方 ◯◯家 御葬儀 係」とし、読み間違いを防ぐためのフリガナを備考欄に加えると親切です。
差出人は「会社名→部署→役職→氏名」の順で統一。連名は3名までが目安で、それ以上は「◯◯部一同」とします。読み上げを希望しない場合は備考に「代読不要」と明記します。
宛名・差出人のルール
肩書は正式名で省略しない(例:×総務 → ○管理本部総務部)。個人差出の場合は住所・電話は不要、会社の場合は代表電話を入れると照合が容易です。
届けるタイミングとマナー
理想は開式の数時間前必着。間に合わない場合は葬儀社へ電話で到着見込みを伝え、喪家の意向に従います。供花・供物の可否も会場規定を確認します。
よくある失敗と防止チェック
弔辞は長すぎ・私事過多・固有名詞の羅列が生じがちです。第三者に音読してもらい、時間と聞きやすさを確認すると整います。写真やSNSへの言及・身内だけが分かる内輪話は削除します。
弔電は宛名の誤記・到着遅延が最多。会場名・式名・喪主名・開式日時を二重確認し、控えと確認番号を必ず保存しましょう。
- 弔辞:600〜800字/2〜3分に収める
- 弔辞:宗教観の押し付け・死因・闘病の詳細は触れない
- 弔電:宛名・会場表記・時間指定を二重確認
- 弔電:宗派不明なら中立表現に統一
NG→推奨の言い換え例
NG「どうして亡くなったのですか?」→ 推奨「突然のことで、お力落としのほどお察し申し上げます。」
NG「天国で幸せに」→ 推奨「安らかなお眠りをお祈りいたします。」
NG「頑張ってください」→ 推奨「ご無理のないようお過ごしください。」
まとめ(直前チェックリスト付き)
弔辞は会場で読み上げる「代表の言葉」、弔電は会場へ届ける「簡潔な哀悼」。違いを押さえ、依頼直後に情報を整えれば、初めてでも落ち着いて務められます。迷ったら葬儀社・会場係に小声で確認しましょう。
弔辞チェック:①持ち時間②字数600〜800③肩書・氏名確認④音読で時間計測⑤A4大き字で印刷/弔電チェック:①宛名・式名・喪主名②開式前必着③60〜120字④中立表現⑤控え保存。
よくある質問(FAQ)
弔辞・弔電に関する「依頼時の可否」「長さ・字数」「締切・到着」「宛名・肩書」「読み方・所作」「辞退の言い方」「英語・多言語」「複数名対応」「読み上げ可否」など、迷いやすいポイントをQ&Aで整理しました。最終判断は喪家・葬儀社・会場の指示を優先してください。
Q1. 弔辞を依頼されたが難しい。断ってもいい?代替案は?
やむを得ない事情があれば辞退可能です。「大役に相応しき方が他におられると存じます」と丁寧に申し出てください。代替案として、弔電や故人への手紙の提出を提案すると円満です。
Q2. 弔辞は何分・何文字が目安?長すぎると失礼?
一般的に2〜3分(600〜800字)が基準。長すぎると式全体の進行を妨げます。音読で時間計測し、句点ごとに息継ぎを入れましょう。
Q3. 弔電の最適な文字数と送るタイミングは?
60〜120字が読みやすい目安。開式の数時間前必着が理想です。間に合わない場合は会場(葬儀社)へ到着見込みを連絡しましょう。
Q4. 宗派が不明。表現はどうする?
宗教色の薄い中立表現を用います(例:「心よりお悔やみ申し上げます」「安らかなお眠りをお祈りいたします」)。神式の「御玉串料」やキリスト教の「御花料」等の固有語は、確証がある時のみ使用します。
Q5. 弔辞で避けるべき内容は?
死因・闘病の詳細・プライベートな内情・武勇伝の誇張・特定宗教観の押し付け・原因の詮索は避けます。内輪話は普遍的な価値に言い換えましょう。
Q6. 宛名や肩書の正式表記が不安。どう確認?
喪家・葬儀社・会場案内の正式表記を一次情報として確認。会社名は略さず部署・役職まで記載、連名は3名まで、超える場合は「◯◯部一同」とします。
Q7. 弔辞の読み方のコツは?緊張対策は?
「最初の一礼→名乗り→本文→結び→遺影に会釈」。A4大きめ文字で印刷し、段落ごとに息継ぎ記号を。緊張したら最終段落へ飛べるよう合図(★)を入れておくと安心です。
Q8. 弔電が開式に間に合わない。どうする?
会場へ連絡のうえ、読経前の到着可否を確認。難しい場合は喪家宛の郵送に切り替え、到着見込みを伝えます。メール連絡のみで済ませるのは避けましょう。
Q9. 英語や多言語での弔電は失礼?
喪家が理解できる言語なら問題ありません。和文を添えるか、和訳併記が望ましいです。固有の宗教語は控え、普遍的表現に留めます。
Q10. 会社・団体名義の弔電や弔辞の注意点は?
組織名→部署→役職→氏名の順で統一。コンプライアンス上の表記(正式社名・肩書)を確認。社内で文面レビューと決裁ルートを通すと齟齬を防げます。
Q11. 弔辞は複数人でもよい?順番は?
可能ですが2名までが一般的。順番は故人との関係や肩書の上位→親交の深い順。総時間は5〜6分以内に収めます。
Q12. 読み上げを控えたい(非公開に)。方法は?
弔電なら備考欄に「代読不要」と明記。弔辞は原稿を喪家へお渡しし、司会から「ご辞退の旨」のみ案内してもらう運用ができます。