神式の葬儀とは?玉串奉奠や祭詞の流れを紹介

神式(しんしき)の葬儀は、故人の御霊(みたま)を鎮め、祖霊としてお祀りするための儀礼です。僧侶の読経が中心となる仏式とは異なり、神職による祝詞奏上(のりとそうじょう)と「玉串奉奠(たまぐしほうてん)」が要となります。

本記事では、神式の基本用語、通夜祭から埋葬祭までの時系列、玉串奉奠の正しい所作、参列マナー(服装・言葉・香典表書き)、神棚封じや祖霊舎(それいしゃ)の整え方、費用やお礼の目安までを一つずつ解説します。地域・神社・葬儀社の方針がある場合は、必ず現地の案内を最優先にしてください。

神式葬儀の基本(仏式との大きな違い)

神式では、故人を「仏」ではなく「祖先神の一柱」として敬い、御霊を鎮めて家の祖霊としてお祀りする考え方が基礎にあります。位牌の代わりに「霊璽(れいじ/みたましろ)」を用い、僧侶の読経の代わりに神職が祝詞を奏上します。

作法面では、焼香の代わりに「玉串奉奠」を行い、柏手(かしわで)は弔事のため音を立てない「忍び手(しのびて)」が基本です(地域・神社により案内があれば従います)。香典表書きは原則「御霊前」を用い、数珠は使用しません。

神式で用いる主な用語

霊璽(みたましろ)/神饌(しんせん:米・酒・塩・水・果物など)/祝詞奏上/玉串奉奠/通夜祭・遷霊祭・葬場祭・出棺祭・埋葬祭/直会(なおらい)。

流れの全体像(時系列の早見)

一般的な順序は、通夜祭・遷霊祭(前夜)→葬場祭・告別式(当日)→出棺祭→火葬→埋葬祭(納骨)→帰家祭・直会、という構成です。地域や会場の都合で一部を同日にまとめることもあります。

各祭の名称は仏式の「通夜・葬儀・告別式・納骨」と対応している部分が多いものの、玉串奉奠や祝詞奏上、忍び手など神式特有の作法が入ります。以下で各祭を詳しく見ていきましょう。

段階 神式の名称 主な内容 目安時間
前夜 通夜祭・遷霊祭 故人の御霊を霊璽へ移し、御霊を慰める儀 30〜60分
当日 葬場祭・告別式 祝詞奏上・玉串奉奠・弔辞・弔電拝読など 40〜90分
当日 出棺祭・火葬 出棺の報告と安全祈願→火葬 20〜60分+火葬
当日/後日 埋葬祭・帰家祭 納骨の祝詞・帰宅後の報告と御霊安鎮 20〜30分

時間配分の考え方

参列者の移動や高齢者の負担を考慮し、会食や直会の時間を含めて2〜4時間程度に収める設計が一般的です。僧侶ではなく神職のスケジュール確保が要となるため、葬儀社と早めに連携しましょう。

通夜祭・遷霊祭(前夜の儀)

通夜祭(つやさい)は、故人の御霊を慰め、遺族・親族・親しい人々が慎ましく故人を偲ぶ神事です。仏式の通夜に相当しますが、構成は簡素で、弔辞や弔電拝読、玉串奉奠が中心となることが多いです。

遷霊祭(せんれいさい/みたまうつし)は、故人の御霊を霊璽に遷す最重要の儀礼です。神職が祝詞奏上ののち、御霊遷しを行います。以後、霊璽は祖霊舎(みたまや)へお祀りしていく基点となります。

参列の作法(前夜)

焼香はありません。玉串奉奠の案内に従い、二礼二拍手一礼は「忍び手(音を立てない柏手)」が基本です。数珠は不要で、香水や派手な装飾は避けます。

葬場祭・告別式(当日の中心儀礼)

葬場祭(そうじょうさい)は、神職の祝詞奏上と玉串奉奠を中心に、故人の御霊の鎮まりを祈る最も重要な式です。遺族代表挨拶や弔辞、弔電拝読が含まれ、厳粛かつ簡素に進行します。

引き続き行う告別式は、参列者が故人に別れを告げる場です。玉串奉奠の所作に自信がなくても、祭員や司会の案内に合わせて動けば問題ありません。

祭壇と供物

神饌(米・酒・塩・水・野菜・果物など)を中心に白木調で整えるのが通例です。花は白や緑を基調とし、仏式の線香・焼香は用いません。

出棺祭・火葬(当日の後半)

出棺祭(しゅっかんさい)は、火葬場へ向かう直前に執り行う短い神事で、神職による祝詞奏上の後、故人の旅立ちの安全と安寧を祈ります。喪主・遺族は整列し、棺の上に白布や榊を整えます。

火葬は自治体の火葬場で行い、仏式と同様に収骨を行います。神式では収骨後に簡潔な報告と黙礼を行い、帰路につきます。

車両と行列の整え方

喪主車・遺族車・親族車の順が基本です。安全を最優先に、長い車列を避け、駐車場導線を事前に確認しておきます。

埋葬祭・帰家祭・直会(納骨・帰宅後の儀)

墓前で行う埋葬祭(まいそうさい)は、納骨時に御霊の安鎮を祈る神事です。玉串奉奠と祝詞奏上を行い、墓所の衛生と安全に配慮して短時間で進めます。

自宅に戻ってからの帰家祭(きかさい)は、故人の帰宅と家内安全を祈る簡素な神事です。その後、控えめな直会(なおらい)を設け、会食の席で御礼を述べることもあります。

年祭(十日祭〜五十日祭・合祀祭)

神式では10日ごとに霊祭(十日祭・二十日祭…五十日祭)を営み、五十日祭ののちに祖霊舎や氏神さまへの合祀祭を行う地域もあります。日程は神職と相談し、案内に従いましょう。

玉串奉奠の作法(手順・忍び手・よくある疑問)

玉串奉奠は、榊の枝に紙垂(しで)を付けた玉串を神前にお供えし、敬虔の真心を捧げる所作です。焼香の代わりに各人が順に行うため、基本の流れを押さえておくと安心です。

弔事では柏手は音を立てない「忍び手(しのびて)」が基本です。地域・神職の指示があればそれを優先してください。迷ったら、深い一礼のみでも失礼には当たりません。

玉串奉奠の手順(一般的な例)

①案内で前へ進み、祭壇前で一礼。②玉串を受け取り、右手で根元、左手で枝先を支えて胸の高さで持つ。③玉串台の前で軽く一礼。④玉串を時計回りに回し、根元(茎)が神前を向くように整える。⑤両手で玉串台に静かに置く。⑥二礼二拍手一礼(拍手は忍び手)。⑦数歩下がって一礼し、退く。

参列マナー(服装・言葉・香典表書き)

服装は仏式と同様に黒の礼装(正喪服・準喪服)が基本です。男性は黒礼服+白シャツ+黒無地ネクタイ、女性は黒のワンピースまたはスーツに黒ストッキングとプレーンパンプスを合わせます。アクセサリーは最小限(パール一連まで)。

お悔やみの言葉は「安らかなお眠りを」「ご冥福」ではなく、「御霊のご平安をお祈りします」「御霊の幸(さち)をお祈りします」など神式の言い回しが丁寧です。数珠は用いず、香典の表書きは「御霊前」を用いるのが一般的です。

香典袋・水引の選び方

黒白の結び切り(双銀でも可)を選び、表書きは「御霊前」。神社や神職へのお礼には「玉串料」「御神前」が用いられることもあります。

  • 中袋の金額は算用数字で明記、住所・氏名を忘れずに
  • 香水・強い整髪料は避け、スマホは消音(バイブも切る)
  • 案内は司会に従い、写真やSNS投稿は控える

神棚封じ・祖霊舎(みたまや)の準備

身内に不幸があった際は、神棚を白紙や半紙で覆う「神棚封じ」を行い、忌明けまで神棚に参拝しないのが通例です。貼り紙に「忌」「奉告」など簡素に記し、忌明けに神職の案内に従って外します。

祖霊舎(みたまや)は、霊璽をお祀りする小さな御社(おやしろ)で、仏式の仏壇に相当する位置づけです。設置場所は清浄で静かな場所を選び、神饌(米・塩・水)や供花を簡素に整えます。

日々のお参りの基本

朝に水・米・塩を整え、軽く一礼(拍手は音を立てない忍び手)。月次・年祭には神職と相談してお参りを整えます。

費用とお礼(玉串料・御礼の目安)

神式の費用の内訳は、式場・祭壇・神職謝礼(祭祀料)・祭具・供花・会食・車両・火葬・納骨関連などです。仏式と同程度のレンジで、祭壇の構成と会食規模で総額が変動します。

神職への謝礼は地域差が大きいものの、通夜祭・遷霊祭・葬場祭・埋葬祭を一連でお願いする場合は一括の「祭祀料」や「玉串料」として包むのが一般的です。御車代・御膳料は別封で用意します。

費目 内容例 メモ
神職謝礼 祭祀料・玉串料 封筒表書きは斎主の指示に従う
御車代・御膳料 交通費・会食相当 別封で混在させない
祭壇・祭具 霊璽・神饌・玉串・榊など 葬儀社のプランに含まれることも

封筒の書き方

白無地または蓮なし双銀の不祝儀袋を用い、表に「玉串料」「祭祀料」「御車代」など名目を黒墨で記します。氏名・住所は楷書で明瞭に。

神式と仏式の違い(用語・所作の比較)

初めての方は、仏式との違いを押さえると理解が早くなります。下表は一般的な比較であり、最終的には神職・葬儀社の案内に従ってください。

特に、焼香がないこと、柏手は忍び手であること、数珠を使わないこと、表書きに「御霊前」を用いることが大きなポイントです。

項目 神式 仏式
中心儀礼 祝詞奏上・玉串奉奠 読経・焼香
故人の称え方 御霊・祖霊 仏・故人
位牌/霊璽 霊璽(みたましろ) 位牌
手の作法 二礼二拍手一礼(忍び手) 合掌・焼香
香典表書き 御霊前/(神社へ)玉串料 御霊前・御佛前(宗派で異なる)
年忌・年祭 十日祭〜五十日祭・年祭 初七日〜四十九日・年忌法要

迷ったときの優先順位

神職(斎主)・葬儀社の案内>地域慣習>一般的な目安、の順に従えば大きな失礼は避けられます。

参列前のチェックリスト(実務のポイント)

当日は緊張しやすいもの。出発前に持ち物と作法を確認しておくと安心です。香典袋の表書きや靴・ストッキングの予備、会場までの動線を事前に把握しましょう。

玉串奉奠の案内は司会が都度行います。所作に自信がなくても、深い一礼と静かな心構えが何よりの礼になります。

  • 香典袋(表書き「御霊前」)・袱紗・ハンカチ
  • 黒の礼装・最小限の小物(数珠は不要)
  • 会場アクセス・駐車場・集合時間の確認
  • スマホはマナーモード(振動も切る)

言葉遣いの例

「このたびはご愁傷様でございました。御霊のご平安をお祈り申し上げます。」など、神式に沿った表現を心がけます。

まとめ

神式の葬儀は、祝詞奏上と玉串奉奠によって故人の御霊を鎮め、祖霊として丁寧にお送りする儀礼です。仏式との違いはありますが、基本は「静か・簡素・清浄」。案内に従って落ち着いて臨めば、初めてでも問題ありません。

表書きは「御霊前」、焼香の代わりに玉串奉奠、柏手は忍び手――この三点を押さえれば要点は十分。迷ったら神職・葬儀社に確認し、故人を偲ぶ心を大切にして参列しましょう。

要点チェック(5つ)

①通夜祭〜埋葬祭の順を把握 ②玉串奉奠=焼香の代替 ③柏手は忍び手 ④香典は「御霊前」 ⑤数珠は不要・案内最優先。

よくある質問(FAQ)

神式の葬儀で迷いやすい「玉串奉奠の手順」「柏手(忍び手)」「香典表書き」「服装・数珠」「神棚封じ」「祖霊舎」「供花の表書き」「言葉遣い」「撮影やSNS」「直会・会食」「年祭」「喪中の参拝」などをQ&Aで整理しました。最終判断は斎主(神職)と葬儀社の指示を優先してください。

Q1. 玉串奉奠はどうやって行うの?回す向きは?

玉串(榊)を受けたら右手で根元、左手で枝先を持ちます。祭壇前で一礼し、時計回りに回して根元(茎)が神前を向くように整え、玉串台に静かに置きます。続いて二礼二拍手一礼(葬儀では拍手は忍び手)を行い、下がって一礼して退きます。

Q2. 葬儀で拍手はしていい?音は出す?

弔事では忍び手(音を立てない柏手)が原則です。地域・神社で指示があればそれに従います。迷う場合は深い一礼のみでも失礼ではありません。

Q3. 香典の表書きは?「御神前」との違いは?

参列者の香典は一般に「御霊前」を用います。神社や神職へのお礼(謝礼)には「玉串料」「御神前」「祭祀料」など名目を分けて用いることがあります。

Q4. 数珠は必要?

神式では数珠は用いません。手は自然に添え、玉串奉奠の所作に集中します。

Q5. 服装は仏式と同じで良い?

はい。黒の礼装(正喪服・準喪服)が基本です。男性は黒礼服+白シャツ+黒無地ネクタイ、女性は黒のワンピース/スーツに黒ストッキングとプレーンパンプス。アクセサリーは最小限に。

Q6. お悔やみの言葉は何と言えばいい?

神式では「御霊のご平安をお祈り申し上げます」「御霊の幸(さち)をお祈りいたします」などの表現が丁寧です。「ご冥福」は仏式由来のため避けます。

Q7. 通夜祭と遷霊祭はどう違う?両方出るべき?

通夜祭は御霊を慰める前夜の神事、遷霊祭は御霊を霊璽(みたましろ)へお遷しする重要神事です。案内状の対象者に該当すれば出席しますが、都合がつかない場合は当日の葬場祭・告別式への参列でも失礼には当たりません。

Q8. 供花(生花)の表書き・並べ方は?

供花の名札は「供花」「御供」など。並び順は会場が決めます。対で出す場合は左右のバランスを取ります。色味は白・緑基調が通例です。

Q9. 神棚封じはいつ・どう行う?

身内の不幸時は神棚を白紙や半紙で覆い、忌明けまで参拝を控える「神棚封じ」を行うのが通例です。外す時期や作法は神職の案内に従います。

Q10. 祖霊舎(みたまや)は仏壇とどう違う?

祖霊舎は霊璽(みたましろ)をお祀りする神式の御社で、仏壇に相当する位置づけです。清浄な場所に神饌(米・水・塩)や榊を整えてお祀りします。

Q11. 写真撮影やSNS投稿はしてよい?

基本は控えるのが礼儀です。集合写真は喪家・斎主の許可がある場合のみ。SNS投稿は原則行わず、許可があっても配慮のない公開は避けます。

Q12. 直会(なおらい)は必ず参加する?辞退は失礼?

参加は任意です。体調・都合で辞退や早退をしても失礼ではありません。受付や幹事に小声で一言断り、返礼品や折詰の扱いを確認します。

Q13. 年祭(十日祭・五十日祭・一年祭など)は仏式の年忌法要と同じ?

位置づけは近いですが、神式特有の呼称と間隔(十日ごと・五十日祭・一年祭…)があります。日取りや祭詞は神職と相談して整えます。

Q14. 喪中は神社の鳥居をくぐってはいけない?

地域・神社で考え方が異なります。忌中(きちゅう)期間は参拝を控える案内が一般的ですが、期間や可否は氏神さまに確認するのが確実です。

Q15. お礼や謝礼の名目はどう書く?御車代・御膳料は?

神職への謝礼は「玉串料/祭祀料」など。移動費は「御車代」、会食相当は「御膳料」として別封が基本です。



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