数珠(じゅず/念珠)は、故人やご先祖に手を合わせる際に手元を整え、心を静めるための大切な仏具です。通夜・葬儀・法要・墓参など、仏式の場に参列するなら一連は用意しておくと安心です。略式(宗派を問わず使えるタイプ)と、本式(宗派別の正式仕様)があり、使い分けと扱い方に基本の作法があります。
本記事では、数珠の意味・構造・種類から、正しい持ち方・置き方、男性/女性の違い、宗派のポイント、素材とサイズの選び方、メンテナンス、やりがちなNGまでを総まとめ。初めてでも迷わないよう表・チェックリストも添えました。
数珠とは(意味と役割)
数珠は、念仏や読経の回数を数える道具に由来し、現在は「祈りの象徴」として手元を整える役目が強くなっています。香・花・灯と同じく、礼拝を支える基本の仏具の一つで、持っているだけで失礼に当たることはありません。
日常的に信仰実践をしていない方でも、通夜・葬儀・法要では携行が一般的です。間に合わせで借りるより、自分専用の一連を用意しておくとサイズ感や手触りが馴染み、所作も落ち着きます。
由来と宗派差
もともと念誦の回数を数える道具であったため、玉数や輪の数に宗派ごとの流儀が残っています。略式数珠は宗派を問わず使われますが、本式数珠は各宗派用が存在するため、購入時は表記を確認しましょう。
略式数珠と本式数珠
略式数珠は一連(片手)で男女別サイズが中心。本式数珠は宗派に合わせた玉数・輪数・房型を持ちます。普段使いは略式、本山や菩提寺での本格法要は本式といった使い分けが一般的です。
数珠の構造と種類
基本パーツは「主玉(珠)」「親玉(大きい玉)」「天玉(親玉の脇の小玉)」「房(ふさ)」です。略式は一連で手に掛けるタイプ、本式は二連・多連でより厳格な構成になります。
見た目は同じでも、玉の大きさ、玉数、房の形状で印象が変わります。手が大きい男性は玉が大きめの方が持ちやすく、手の小さい方は小玉+軽め素材が快適です。
主玉・親玉・天玉・房
主玉が全体の基準サイズ、親玉が一番大きく輪の要。親玉の両側に天玉が入り、房は装飾と象徴を兼ねます。房は紐房・頭房・梵天房など複数の型があります。
一連/二連・片手/両手
略式は一連(片手)で、握りやすく携帯も容易。本式は二連(両手に回す)や複雑な通し方があり、宗派ごとに所作が異なることがあります。
分類 | 形状 | 玉数の目安 | 主な用途 |
---|---|---|---|
略式(男女別) | 一連・房1〜2 | 主玉108前後の割数(27・54等) | 通夜・葬儀・法要全般(宗派不問) |
本式(宗派別) | 二連・多連・房型指定 | 宗派ごとに定めあり | 菩提寺・本山の正式法要など |
正しい持ち方・扱い方(通夜・葬儀・法要)
持ち方の基本は「静か・落ち着き・清潔」。受付や移動時は左手で軽く持ち、合掌・焼香の場面で丁寧に使います。ジャラジャラと音を立てたり、ぶら下げて歩いたりしないのがマナーです。
所作は地域・寺院で指示があればそれに従います。一般的には、合掌の際に両手に軽く掛けて房を下に垂らします。一部の宗派(例:浄土真宗)では左手や手首への掛け方など独自の作法がありますので、案内がある場合は優先しましょう。
受付・移動時の持ち方
基本は左手に持ち、右手は会釈・記帳・袱紗の出し入れに備えます。バッグの外にぶら下げるのは避け、出しやすい場所に納めておきます。
合掌・焼香の所作
合掌時は、数珠を両手に軽く掛けて房を下へ(一般的な略式の作法)。焼香では、左手に掛けたまま・または両手に掛け、右手で香をつまんで静かに額の近くへ運びます。いずれも大きな動作は控え、音を立てないのがポイントです。
- 手を合わせる前に数珠を整える(ねじれを直す)
- 房は下向きに自然に垂らす(床に触れないよう注意)
- 焼香台では前後の人の流れに合わせ、動作は簡潔に
席での置き方
自席では膝上または袱紗の上に静かに置きます。スマホや鍵と一緒に置かない、机に広げないのが基本。退席時は忘れ物に注意しましょう。
男性・女性の違い(サイズ・色・房)
男女差は主に「玉サイズ・色味・房のボリューム」に現れます。男性はやや大きめの玉で落ち着いたダークトーン、女性は一段細め・軽めで上品な色合いが一般的です。ただし絶対ではないため、手の大きさや普段の装いに合わせて選べば問題ありません。
葬儀では華美を避けるのが原則。透明感の強いクリスタルや明るいカラーストーンは控えめに、黒・茶・濃紺・灰など沈んだ色が無難です。房は光沢が強すぎないものを選ぶと落ち着きます。
玉サイズと色の目安
男性:主玉10〜12mm程度/黒檀・縞黒檀・艶消しオニキス等。女性:主玉7〜10mm程度/艶消しオニキス・紫檀・艶控えめのグレー系などが人気です。
房の種類(紐房・頭房・梵天房)
紐房はすっきり軽やか、頭房は存在感があり格式を感じさせ、梵天房は丸く柔らかい印象。略式では紐房・頭房が多く、本式では宗派指定の房型があります。
項目 | 男性の目安 | 女性の目安 | コメント |
---|---|---|---|
主玉サイズ | 10〜12mm | 7〜10mm | 手囲いに合わせて調整 |
色味 | 黒・焦茶・濃紺・深緑 | 黒・焦茶・グレー・鳶色 | 光沢控えめが無難 |
房 | 頭房/紐房(落ち着き) | 紐房/頭房(上品) | 本式は宗派指定が優先 |
宗派別の本式数珠のポイント
本式は宗派ごとに玉数・輪数・通し方・房型が異なります。名称に「◯◯宗用」「門徒数珠」などと明記されている製品を選ぶと安心です。略式での参列も失礼には当たりませんが、菩提寺・本山の大きな法要では本式が望まれる場合があります。
以下はごく一般的な傾向の概要です。地域・寺院の指示があれば必ずそちらを優先してください。
浄土宗
二連の本式がよく用いられ、親玉・天玉・房の配置に特徴があります。略式でも参列可能ですが、檀家行事では本式推奨のことがあります。
真言宗
二連で通し方に独自の作法があり、房は梵天房・頭房など。加持祈祷の場面などで用法が細かい場合があります。
曹洞宗・臨済宗(禅宗)
一連108玉系の本式や、略式の落ち着いた色味がよく用いられます。所作は簡素で静かな礼拝が基本です。
日蓮宗
二連で房型や親玉の配置に特徴が見られます。題目の唱和など、場面での持ち方に指示があることがあります。
浄土真宗(本願寺派・大谷派など)
「門徒数珠」と呼ばれる仕様があり、合掌時の掛け方・左手の扱いなど独自の作法が伝わっています。寺院の案内を最優先に。
選び方の基準(TPO・素材・予算)
まずは「略式の黒系」で一連を持つのが最も失敗が少ない選び方です。手に合う玉サイズと、光沢を抑えた房を選べば、通夜から年忌まで広く使えます。本式は檀家としての法要が増えてきたら検討しましょう。
素材は木玉(軽い・温かい)、石玉(表情が豊か・やや重い)、ガラス・樹脂(扱いやすい・手頃)など。汗や皮脂で変化するため、手入れのしやすさも選定ポイントです。
素材別の特徴(木・石・他)
木玉(黒檀・紫檀・柘植):軽くて手馴染み良好/石(オニキス・翡翠・瑪瑙):重みがあり落ち着き、艶消しが喪の場に合う/ガラス・樹脂:価格を抑えつつ見栄えも良い。
- 汗かき:木玉か艶消しストーンで手滑りを抑える
- 長時間の法要:軽い木玉・小玉が疲れにくい
- フォーマル重視:艶消しオニキス+紐房が無難
色と印象の選び方
喪の席は黒・焦茶・濃紺・深緑など沈んだ色。透明感の強い白・明るいブルー・ピンクは避けるのが一般的です。艶は抑えめだと上品に映ります。
予算の目安
略式:3,000〜15,000円程度/本式:10,000〜30,000円程度が目安。木玉は抑えめ、絹房や天然石は上振れします。まずは略式の良品を一連、で十分実用的です。
お手入れ・保管・修理
日々のお手入れは乾拭きが基本。石玉は柔らかい布で汗・皮脂を軽く落とし、木玉は濡れ布巾を避けて乾拭きに徹します。房は絡みやすいので、ねじれを直してからケースにしまいましょう。
保管は直射日光・高温多湿を避け、専用袋や桐箱に入れると安心です。房が乱れたら蒸気や霧吹きで軽く整え、完全乾燥させてから収納します。切れ・伸び・房交換は仏具店で修理可能です。
日々の手入れ
使用後はハンカチ等で全体を軽く拭き、汗・粉塵を落とします。香の煙でくすむ前に簡単な手入れを習慣化すると長持ちします。
房のケア
房が広がったら、距離を取ったスチームで湿らせて指で整え、平らに寝かせて乾燥。濡らし過ぎ・直当ては変形の原因になります。
保管と持ち運び
専用ケースや袋で持ち歩き、バッグの底で押し潰さない。長期保管は乾燥剤を同梱、年に一度は状態チェックを。
NGマナーとよくある疑問
仏具は「静かに・清潔に・簡素に」が合言葉です。音を立てる、大きく振る、アクセサリー感覚で見せる、といった扱いは不適切。焼香や合掌の所作で数珠に意識を向けすぎるより、故人を偲ぶ気持ちを大切にしましょう。
貸し借りについては、応急としてその場しのぎはやむなしですが、できれば本人用を用意するのが望ましいとされます。宗派が分からない場合は略式で十分です。
やりがちなNG
バッグ外にぶら下げる/手首でジャラジャラ鳴らす/床に直接置く/房を掴んで振る/アクセサリーと重ね付け、などは避けましょう。
借り物や共有はOK?
緊急時の貸し借りは失礼ではありませんが、今後に備えて各自の一連を用意するのがおすすめです。サイズ・素材が手に合うと所作が安定します。
子どもの数珠は必要?
必須ではありませんが、小学校高学年以降は小ぶりの略式を一つ持たせると礼拝の所作が身につきます。就学前は保護者が同席で見守れば問題ありません。
サイズ測り方とフィット感のチェック
持ちやすさは玉サイズと輪の余りで決まります。手が大きい方は10〜12mm、小さい方は7〜9mmを目安に、合掌時に無理がないか試します。房が手首に絡まないかも確認しましょう。
計測はメジャーで手の甲の外周(親指の付け根の盛り上がりを回る)=「手囲い」を測り、適正玉サイズの目安に当てはめます。
手囲いの測り方
親指を内側に軽く入れて手をすぼめ、メジャーで甲の一番太い周りを測定。下表の目安から、まずは試着用のレンジを決めます。
手囲い目安 | 男性おすすめ主玉 | 女性おすすめ主玉 | 備考 |
---|---|---|---|
〜19cm | 9〜10mm | 7〜8mm | 小ぶり・軽めが快適 |
19〜21cm | 10〜11mm | 8〜9mm | 標準的なバランス |
21cm以上 | 11〜12mm | 9〜10mm | 見栄えと握りやすさ両立 |
試着時のポイント
合掌・焼香の動作を想定し、玉が滑らないか、房が手の甲に掛かり過ぎないかを確認。房の毛羽立ちが少ないものを選ぶと長持ちします。
まとめ
数珠は「静かな心を整える道具」です。まずは略式の黒系を一連、手に合う玉サイズ・房で用意すれば通夜から年忌まで幅広く対応できます。宗派行事が増えたら、菩提寺の指示に沿って本式も検討しましょう。
選び方は〈サイズ→色味→房→素材〉の順に決め、扱いは〈静か・清潔・簡素〉を徹底。手入れ・保管を丁寧にすれば、長く相棒として寄り添ってくれます。
要点チェック(5つ)
①略式の黒系を一連 ②手囲いで玉サイズ決定 ③房は光沢控えめ ④所作は寺院の指示優先 ⑤乾拭き・ケース保管で長持ち。
よくある質問(FAQ)
数珠(念珠)の宗派差、略式/本式の使い分け、男女兼用、左手/右手の持ち方、合掌・焼香の所作、色や素材の選び方、房の手入れ、貸し借り、子ども用、忘れたときの対応など、実務で迷いがちな点をQ&Aで整理しました。寺院から案内がある場合は必ずそちらを優先してください。
Q1. 略式数珠だけでも失礼になりませんか?
一般的な通夜・葬儀・法要では略式数珠で差し支えありません。ただし菩提寺や本山の正式法要などでは、本式(宗派別)の使用が望まれる場合があります。
Q2. 宗派が分かりません。どれを買えばいい?
黒系の略式数珠を選べばほとんどの仏式で使えます。後から宗派が判明したら、本式の買い足しを検討しましょう。
Q3. 男性用・女性用の違いは何ですか?兼用はできますか?
主に玉サイズと色味、房のボリュームが違います。手の大きさに合えば兼用でもマナー違反ではありません。
Q4. 左手と右手、どちらで持つのが正しい?
移動や受付時は左手に軽く持つのが一般的。合掌時は両手に軽く掛けて房を下に垂らします。宗派の指示があればそちらを優先します。
Q5. 合掌や焼香のときの数珠の掛け方は?
合掌前にねじれを整え、房を下向きに。焼香では左手に掛けたまま、または両手に掛けて右手で香を扱います。大きな動作や音は避けましょう。
Q6. 明るい色や透明な石(クリスタル)はNG?
葬儀では黒・焦茶・濃紺・灰など沈んだ色が無難。透明で強い輝きのものは避けるのが一般的です。
Q7. 数珠をバッグの外に下げてもいい?
避けましょう。袋や内ポケットに収納し、必要な場面で静かに取り出すのが作法です。
Q8. 房(ふさ)が乱れたときの整え方は?
距離を取って軽くスチームを当て、指で形を整えた後に完全乾燥。濡らし過ぎ・直当ては変形の原因になります。
Q9. お手入れはどうする?洗っても良い?
基本は乾拭き。木玉は水拭きNG、石玉は柔らかい布で皮脂を拭き取ります。丸洗いは避け、汚れが強い場合は仏具店に相談を。
Q10. 糸が切れた・房が取れたら?
仏具店で修理・紐替え・房交換が可能です。切れやすくなったら早めのメンテナンスを。
Q11. 子どもに数珠は必要?
必須ではありませんが、高学年以降は小ぶりの略式を持たせると所作が整います。就学前は保護者が見守れば問題ありません。
Q12. 忘れてしまった場合のマナーは?
そのまま素手で合掌して構いません。会場での貸し出しや親族からの一時的な借用も失礼ではありません。
Q13. 席での置き場所は?
膝上や袱紗の上に静かに置きます。机に広げたり、スマホや鍵と重ねないようにしましょう。
Q14. 略式から本式へ買い替えるタイミングは?
菩提寺の行事が増えた・本山参拝の機会があるなど、TPOが高度化してきたら宗派別の本式を検討しましょう。
Q15. 樹脂やガラス製はマナー違反?
いいえ。落ち着いた色味と過度な光沢を避ける前提であれば問題ありません。扱いやすさや予算に応じて選べます。