お布施は「読経や法要に対する感謝」をあらわす志(こころざし)です。明確な料金表はなく、地域や寺院の方針、儀礼の規模によって幅が生じます。まずは意味と位置づけを正しく理解し、家族・菩提寺・葬儀社と丁寧にすり合わせることが大切です。
本記事では、通夜・葬儀・初七日・四十九日・年忌法要ごとの相場の考え方、封筒・表書き・墨色、水引の要否、渡すタイミングと所作、御車代・御膳料の扱い、会計上の注意点、トラブル防止のコツまでを実務目線で整理します。数値はあくまで一般的な目安であり、最終判断は寺院の指示を優先してください。
お布施とは(意味・位置づけ)
お布施は、僧侶の読経やご導師のご奉仕に対して「ありがとう」の気持ちを形にした供養の一部です。料金の対価ではなく「施し(ほどこし)」の思想に由来するため、寺院が金額を固定しない運用が広く見られます。したがって、金額の多寡よりも、礼節と段取りの整え方が大切です。
とはいえ実務的には金額の目安が必要です。通夜と葬儀を同じ僧侶が勤める場合、総額で考える地域もあれば、各式ごとに包む地域もあります。どちらの方式かを最初に確認し、御車代・御膳料・戒名(法名)授与の有無といった要素を整理してから準備しましょう。
お布施と「謝礼」「戒名料」の違い
「お布施」は宗教的な志、「謝礼」は世話役・司会・演奏など宗教外サービスへのお礼を指します。「戒名料」という表現は避け、あくまでお布施の中で気持ちを表す——この考え方が無難です。
相場の全体像(通夜・葬儀・法要の目安)
下表はよく用いられる目安のレンジです。地域や寺院の方針、僧侶の人数、移動距離、会場時間、読経回数によって上下します。導師に加えて脇僧・式衆がいる場合は、主たる導師に重きを置き、補助僧にはその半額程度を別包にする慣例もあります。
※表内は一世帯・一寺院・標準的規模を想定。金額は参考レンジであり、固定ではありません。御車代は距離・交通手段に応じて調整。御膳料は会食を辞退された際の目安です。
場面 | お布施(目安) | 御車代 | 御膳料 | メモ |
---|---|---|---|---|
通夜(読経) | 3万〜10万円 | 5千〜2万円 | 5千〜1万円 | 葬儀と総額で包む地域もある |
葬儀・告別式 | 5万〜20万円 | 5千〜2万円 | 5千〜1万円 | 初七日を同日で含む場合は上振れ |
初七日(当日または別日) | 1万〜5万円 | 5千〜1万円 | 5千円前後 | 会食有無で御膳料判断 |
四十九日(納骨含む) | 3万〜10万円 | 5千〜2万円 | 5千〜1万円 | 納骨同行・移動距離で加算 |
百か日法要 | 1万〜3万円 | 5千円前後 | 5千円前後 | 地域により省略も |
一周忌・三回忌 | 2万〜5万円 | 5千〜1万円 | 5千円前後 | 参列規模で幅 |
七回忌以降の年忌 | 1万〜3万円 | 5千円前後 | 5千円前後 | 内輪中心なら控えめでも可 |
地域・寺院・規模でのブレの例
檀家制度が根強い地域は高め、都市部のホール葬は控えめ傾向など差があります。読経が複数回・長時間・僧侶複数・遠方移動があるほど上振れやすく、逆に家族葬・短時間なら控えめでも礼を失しません。
包む金額を決める手順
金額は「寺院方針」「儀礼の範囲(読経回数・納骨同行)」「僧侶人数」「移動距離」「会食対応(御膳料)」を軸に考えます。先に寺院へ総額の考え方を相談し、通夜〜葬儀を合算か個別か、初七日を含むかを決めるとブレが減ります。
迷ったら、次の手順で固めましょう。①寺院へ確認 → ②家族で上限レンジを合意 → ③個別封筒(御布施/御車代/御膳料)を作成 → ④代表者が当日の渡し方を一本化。金額は切りの良い数字(例:3万・5万・7万など)にし、硬貨は避けるのが無難です。
僧侶人数・距離・所要時間の考慮
導師+脇導師の体制では、導師に重きを置き、脇導師へは半額〜3分の1程度を別包にする配分が見られます。遠距離やタクシー利用が想定される場合は御車代を手厚くします。
封筒・表書き・墨の色(水引の要否)
お布施は無地の白封筒または奉書紙(中袋付き可)が基本で、水引は不要が一般的です。表書きは中央上に「御布施」、下段に喪主(施主)名。裏面や中袋に住所・氏名・金額(大字)を書きます。地域により双銀・黄白の水引封筒を用いる運用もありますが、寺院の指示に従うのが安全です。
墨色は通常濃い黒墨を用います(香典は薄墨ですが、お布施は黒墨が一般)。御車代・御膳料はそれぞれ別封にして、「御車代」「御膳料」と表書きします。
用途 | 表書き | 封筒 | 備考 |
---|---|---|---|
お布施 | 御布施 | 白封筒/奉書(黒墨) | 水引は原則不要 |
御車代 | 御車代 | 白封筒 | 交通費相当。別封 |
御膳料 | 御膳料 | 白封筒 | 会食辞退時の心付け |
神式・キリスト教の表書き
神式は「御玉串料」「御神前」「御祈祷料」など、キリスト教は「御礼」「献金」「御ミサ料」などを用いる地域が一般的です。教会・神社の案内に合わせましょう。
渡すタイミング・手順・マナー
原則は式の前後に控室で、住職(僧侶)または寺務の方へ直接お渡しします。参列者の目に触れる場所での金銭授受は避け、袱紗(ふくさ)から出して正面を相手側に向け、両手で差し出します。言葉は簡潔に、「本日はご導師ありがとうございます。◯◯家よりお納めください。」などが無難です。
複数封筒がある場合は、お布施→御車代→御膳料の順で重ねを整え、内容を簡単に添えてお渡しします。タイミングは通夜:読経前後、葬儀:開式前または出棺後、法要:開式前が多いです。
受付に預ける?直接手渡し?
寺務所や控室がある会場では直接手渡しが基本。会場運営の都合で受付預かりにする場合は、必ず内訳と枚数を記したメモを同封し、担当者名を控えます。
御車代・御膳料の考え方
御車代は交通費・移動時間への配慮、御膳料は会食を辞退された際のお礼です。距離・タクシー利用・時間帯(早朝・夜間)を勘案し、お布施とは別封で用意します。納骨や複数会場移動がある日は手厚くするのが通例です。
会食にご同席いただいた場合は、御膳料は不要です。お弁当や折詰をお渡しする際は、併せて御車代のみを包むなど柔軟に対応します。
状況 | 御車代の目安 | 御膳料の目安 | メモ |
---|---|---|---|
同一施設内(移動ほぼ無し) | 5千円前後 | 会食辞退時5千円前後 | 短時間・近距離 |
市内移動あり/タクシー使用 | 5千〜1万円 | 5千〜1万円 | 領収書不要が一般、要相談 |
遠方/長時間/納骨同行 | 1万〜2万円 | 5千〜1万円 | 複数会場移動は手厚く |
複数寺院・兼務・応援僧侶の扱い
導師の寺院と別寺院の僧侶が加わる場合、基本は各寺院に別包で用意します。金額配分は導師を厚めに、応援僧侶は半額〜3分の1程度が目安です。
領収書・香典・会計処理の注意点
お布施は宗教上の性格から領収書を発行しない運用が一般的です。ただし事情により証憑が必要な場合は、受取書・御礼状などの形で対応いただけることもあるため、必ず事前に相談しましょう。御車代・御膳料についても同様です。
香典返し・会食・返礼品などの実費と混同しないよう、封筒・袋・会計メモを分けて管理します。会計係を一人に固定し、授受のタイムスタンプと相手の氏名をメモしておくと安心です。
納付方法(現金・振込)
原則は現金手渡しですが、遠方や入院中など特別な事情では振込対応の寺院もあります。名義・内訳・用途を明記し、お礼の挨拶は別途必ずお伝えしましょう。
トラブル防止のコツ(家族・寺院・葬儀社の連携)
トラブルの多くは「金額の齟齬」「渡す相手・タイミングの行き違い」「封筒の書き誤り」です。事前連絡→家族合意→封入とメモ→当日の段取り表の4ステップで、ミスを大幅に減らせます。
家族内は「誰が寺院連絡」「誰が会計」「誰が当日手渡し」を明確化。寺院には「総額の考え方」「読経範囲」「御車代/御膳料の有無」を確認し、葬儀社には「手渡しのタイミングと場所」を確認しておきます。
家族内合意のテンプレ
合意事項:
・通夜〜葬儀の方式(合算/個別)/初七日を含むか
・金額レンジ(上限◯万円)と内訳(御布施/御車代/御膳料)
・手渡し担当(◯◯)/受付預け時の控え方法
・寺院連絡担当(◯◯)—当日動線・控室の位置確認
チェックリスト(前日まで・当日)
抜け漏れ防止のために、前日までに封筒記入と金額確認を済ませ、当日は袱紗・段取りメモを携帯しましょう。万一の急な僧侶変更に備え、予備の白封筒・筆ペンも用意すると安心です。
迷ったら「寺院の指示>地域慣習>ネット情報」。不明点は率直に伺うのが最も丁寧です。
- 寺院へ:総額の考え方/読経範囲/初七日同日可否を確認
- 金額:切りの良い数字で準備(新札でなくて可、シワ・折れは整える)
- 封筒:御布施・御車代・御膳料を別封、黒墨、裏面に住所氏名・金額
- 袱紗:弔事用(紫・紺・鼠)/当日持参
- 段取り:渡す場所・タイミング・相手の役職をメモ
- 会計:授受の時間と相手名を控え、香典・返礼と混同しない管理
大字(旧字体)記入の早見表
中袋の金額欄は大字(だいじ)を用いると改ざん防止になります。以下を参考にしてください。
数字 | 大字 | 備考 |
---|---|---|
一/二/三/四 | 壱/弐/参/四 | 四はそのまま |
五/六/七/八/九 | 伍/六/七/八/九 | 五は「伍」 |
十/百/千/万/円 | 拾/百/阡(仟)/萬/圓 | 阡は仟でも可 |
まとめ
お布施は「感謝を形にする志」。金額の正解は一つではありませんが、寺院の方針を確認し、家族で合意し、礼節を尽くしてお渡しすれば十分に想いは伝わります。封筒・表書き・手渡しの段取りを整え、御車代・御膳料は別封で準備しておきましょう。
通夜・葬儀・法要ごとの相場レンジはあくまで目安です。迷ったら率直に相談し、「静かに・簡潔に・丁寧に」の三原則を守る——それがもっとも失敗のない進め方です。
よくある質問(FAQ)
お布施の金額・封筒・水引・墨色・渡すタイミング・御車代/御膳料・領収書・複数僧侶の配分・振込可否・新札の扱い・香典との違い・受付預かりなど、現場で迷いやすい疑問をQ&Aで整理しました。最終判断は菩提寺(依頼寺院)と会場運営の指示を優先してください。
Q1. お布施の金額は誰に確認すべき?寺院へ直接聞いても失礼では?
寺院(住職・寺務)に率直に相談するのが最も確実です。「総額の考え方」「通夜と葬儀は合算か」「初七日を含むか」を確認しましょう。失礼にはあたりません。
Q2. 水引封筒は必要?香典袋を流用してもいい?
お布施は白無地封筒/奉書・黒墨・水引不要が一般的です。香典袋の流用は避けましょう。地域により双銀・黄白の水引を用いる運用もあるため、寺院の方針を優先します。
Q3. 表書きと墨の色は?中袋の書き方は?
表書きは「御布施」。下段に施主名を黒墨で。中袋(または裏面)に住所・氏名・金額(大字)を記します。御車代・御膳料は別封で各表書きを。
Q4. 渡すタイミングはいつ?式中に渡してもいい?
式の前後に控室で手渡しが基本。参列者の前や式中の授受は避けます。通夜は読経前後、葬儀は開式前か出棺後、法要は開式前が目安です。
Q5. 御車代と御膳料はいくら?どんな時に用意する?
御車代は移動配慮として5千〜2万円程度、御膳料は会食辞退時の心付けで5千〜1万円が目安です。距離・時間帯・納骨同行の有無で加減します。
Q6. 複数の僧侶(導師+脇導師)がいる場合の配分は?
導師を厚めに、脇導師は半額〜3分の1程度を別封で用意する配分がよく見られます。寺院側の指示があればそれに従いましょう。
Q7. 新札はNG?お札の向きや入れ方に決まりはある?
お布施は香典と異なり新札でも差し支えありません。向きの決まりは厳格ではありませんが、肖像が表側・上向きになるよう揃え、折り目が目立たないようにします。
Q8. 領収書はもらえる?会計処理が必要な場合は?
宗教上の性格から領収書を発行しない運用が一般的ですが、事情を説明して相談すれば受取書・御礼状等で対応いただける場合もあります。事前に確認を。
Q9. 現金以外(振込・封筒郵送)でも良い?
原則は現金手渡し。遠方や入院等の事情があれば振込可の寺院もあります。名義・用途・内訳を明記し、口頭または書面で挨拶を添えましょう。
Q10. 香典とお布施の違いは?香典から充当して良い?
香典は参列者から遺族へ、お布施は遺族から寺院へ。会計上は別管理が原則です。充当の可否は家族内の判断ですが、封筒は必ず分けて扱います。
Q11. 受付に預けても大丈夫?誰に渡すのが正解?
基本は住職(僧侶)本人または寺務担当者へ。運営上受付預かりにする場合は、内訳と枚数のメモを同封し、受け取り担当名と時刻を控えておきましょう。
Q12. 戒名(法名)授与があると金額は上がる?
相場が上振れする傾向はありますが、あくまで「お布施」の考え方です。寺院に総額の目安と内訳の考え方(読経・法要・戒名相当)を事前に相談してください。